今回は人狼極限についてお話していこうと思います。
これは,人狼ゲームに関する論文から着想を得たもので,今回は人狼ゲームにおける極限の式を見ていこうと思います。
人狼極限
以下の式は,私が勝手に命名した「人狼極限」なのですが,その極限がこちらになります。
$$\frac{\pi}{2}=\displaystyle \lim_{k \to \infty}( \frac{(2k)!!}{(2k-1)!!} )^2\frac{1}{2k+1}$$
(※!!は2重階乗) 文献<1>migdalの研究より引用
この極限は,人狼チームが勝つ確率の近似式を導出するときに出てくる極限です。
\(\\frac{\pi}{2}\)は大体、1.57くらいです。にわかに信じがたい事実かもしれませんが,この式を証明しましょう。
人狼極限を実際に計算
本当に,\(\frac{\pi}{2}\)になるのか疑わしい人のために,実際に人狼極限を計算し
てみました。今回も,私が愛用しているC言語を使って,計算してみました。
\(( \frac{(2k)!!}{(2k-1)!!} )^2\frac{1}{2k+1}\)の値 | |
\(k=10\)のとき | \(1.50109\cdots\) |
\(k=100\)のとき | \(1.56304\cdots\) |
\(k=1,000\)のとき | \(1.57001\cdots\) |
\(k=10,000\)のとき | \(1.57072\cdots\) |
\(k=100,000\)のとき | \(1.57079\cdots\) |
\(k=1,000,000\)のとき | \(1.57079\cdots\) |
\(\frac{\pi}{2}\)の真値は,\(1.570796\cdots\)くらいになるので,人狼極限はでたらめではなさそうですね。
人狼極限の証明
ウォリスの公式を使った証明
この極限を普通に求めるのは相当至難の業です。式変形をしてみましょう。
\(\displaystyle \lim_{k \to \infty}( \frac{(2k)!!}{(2k-1)!!} )^2\frac{1}{2k+1}\)
\(\displaystyle \lim_{k \to \infty}\frac{((2k)!!)^2}{((2k-1)!!)^2(2k+1)}\)
\(\displaystyle \lim_{k \to \infty}\frac{((2k)!!)^2}{((2k-1)!!)(2k+1)!!}\) \(∵ (2k+1)!!=(2k-1)!!(2k+1)\)
!!の記号を使わずに表すと,
\(\frac{2^2}{1・3}\frac{4^2}{3・5}\frac{6^2}{5・7}\cdots\frac{(2k)}{(2k-1)(2k+1)}\cdots\)
となります。
では,この式を\(\prod\)を使って書き直してみます。\(\prod\)は,\(\sum\)のかけ算バージョンです。
\(=\prod_{k=1}^{\infty} \frac{((2k)!!)^2}{(2k-1)(2k+1)}\)
すると,この極限は,ウォリスの公式という無限積の公式と同じことがわかりました。
ウォリスの公式が登場した記事->
https://cupuasu.club/arithmetic-infinite-product/
では,ウォリスの公式を使わずに導出してみましょう
ウォリスの公式を証明
この極限を証明するために,\(\int_{k=1}^{\frac{\pi}{2}} sin^nx dx\)の結果と,はさみうちの原理を使います。
\(\int_{k=1}^{n} sin^nx\)については,こちら->
\(0<x<\frac{\pi}{2})\で,\(0<sin x<1\)より,以下の不等式
\(\int_{k=1}^{\frac{\pi}{2}} sin^{2k+2}x dx <\int_{k=1}^{\frac{\pi}{2}} sin^{2k+1}x dx<\int_{k=1}^{\frac{\pi}{2}} sin^{2k}x dx \tag{1}\)
が成立します。ここで,積分を2重階乗で表す為に,以下の3つの等式を使います。
$$\int_{k=1}^{\frac{\pi}{2}} sin^{2k+2}x dx =\frac{(2k+1)!!}{(2k+2)!!}\frac{\pi}{2}\tag{2}$$
$$\int_{k=1}^{\frac{\pi}{2}} sin^{2k+1}x dx =\frac{(2k)!!}{(2k+1)!!}\frac{\pi}{2}\tag{3}$$
$$\int_{k=1}^{\frac{\pi}{2}} sin^{2k}x dx =\frac{(2k-1)!!}{(2k)!!}\frac{\pi}{2}\tag{4}$$
を使って,式(2)~(4)を式(1)に代入すると,
\(\frac{(2k+1)!!}{(2k+2)!!}\frac{\pi}{2}<\frac{(2k)!!}{(2k+1)!!}\frac{\pi}{2}<\frac{(2k-1)!!}{(2k)!!}\frac{\pi}{2}\)
が成立します。右辺を\(\frac{\pi}{2}\)とすれば,はさみうちの原理が使えそうですね。
そして,式(1)の両辺を\(\frac{(2k-1)!!}{(2k)!!}\)で割ります。すると,
\(\frac{\pi}{2}\frac{2k+1}{2k+2}<\frac{((2k)!!)^2}{(2k-1)!!(2k+1)!!}<\frac{\pi}{2}\)
です,あとは,\(k\)を無限まで持って行くだけです。
\(\displaystyle \lim_{k \to \infty}\frac{\pi}{2}\frac{2k+1}{2k+2}<\displaystyle \lim_{k \to \infty} \frac{((2k)!!)^2}{(2k-1)!!(2k+1)!!}<\frac{\pi}{2}\)
で示したい式が真ん中にきました。あとは,左の極限をとると,
\(\frac{\pi}{2}<\displaystyle \lim_{k \to \infty} \frac{((2k)!!)^2}{(2k-1)!!(2k+1)!!}<\frac{\pi}{2}\)
となり,はさみうちの原理より,
\(\displaystyle \lim_{k \to \infty} \frac{((2k)!!)^2}{(2k-1)!!(2k+1)!!}=\frac{\pi}{2}\)
ということが示せました。
結果
人狼極限
$$\displaystyle \lim_{k \to \infty}( \frac{(2k)!!}{(2k-1)!!} )^2=\frac{1}{2k+1}\frac{\pi}{2}$$
は,ウォリスの公式より,成立する。
つまり,人狼極限はウォリスの公式と同一であるということが分かりました。
ウォリスの公式
$$\prod_{k=1}^{\infty} \frac{(2k)^2}{(2k-1)(2k+1)}=\frac{\pi}{2}$$
人狼極限
$$\displaystyle \lim_{0 \to \infty}( \frac{(2k)^2}{(2k-1)})^2\frac{1}{2k+1}=\frac{\pi}{2}$$
関連記事
最後に
このウォリスの公式は,人狼の勝つ確率を求める近似式を出すときに出てきます。
別に覚えろとは言いませんが,こんな公式があるんだなぁと思っていただければ,幸いです。
参考文献:<1> P. Migdał. A mathematical model of the mafia game. Arxiv preprint arXiv:1009.1031, 2010.