今日は確率のパラドックスについてまとめてみました。
確率は,ときとして私たちに可能性を与え,ときには牙をむく存在であることを知って欲しいということで,直感に反する確率のお話をします。
モンティホール問題
問題:
3つの扉の1つに景品があり,挑戦者がその1つを選ぶと,司会者が残りの扉のうち,挑戦者が選ばなかった扉の内,ハズレである扉を開け,挑戦者に扉を選び変える権利を与えられるゲームです。
さて,このとき,挑戦者は,扉を選び変える方がいいのか?それとも,選びなおさない方がいいのか?
答え:この場合は,挑戦者は扉を選び変えた方がいいです。
挑戦者が扉を変えると,景品をもらえる確率は上がります。
仮に挑戦者が一番目の扉を選んだとすると,司会者はハズレの扉である3番目を開きます。
ここで,司会者がハズレの扉を開いた後の扉の選択肢を表にして表します。
挑戦者が扉を選ぶ | 司会者が扉を開けた後の選択肢 | 挑戦者が扉を変える |
1\(\cdots\)ハズレ | 1,2 | 2\(\cdots\)あたり |
3\(\cdots\)ハズレ | 3,2 | 2\(\cdots\)あたり |
2\(\cdots\)あたり | 3,2 または 1,2 | 1 または 3\(\cdots\)ハズレ |
\(\vdots\) | \(\vdots\) | |
当たる確率\(\frac{1}{3}\) | 当たる確率\(\frac{2}{3}\) |
となります。
よって,挑戦者が扉を選びなおさなかった場合は,景品が入っている扉を開ける確率は
\(\frac{1}{3}\)
で,
扉を選びなおした場合は,景品の扉を開ける確率は
\(\frac{2}{3}\)
になります。
この問題は扉が3つだけだったから,確率の上昇に気づきにくいかもしれませんが,以下の場合ではどうでしょうか?
類題:
扉が30個で景品がどれか1つの扉に隠されていて,司会者がハズレの扉を28個開けた場合に,挑戦者は扉を選び変えた方がいいか,それとも,選び変えない方がいいのか。
扉を変えなかった場合,あたりの扉を開ける確率は,
\(\frac{1}{30}\)
扉を変えた場合,あたりの扉を開ける確率は
\(\frac{29}{30}\)
扉を選び変えた方が確率が高いのを目に見えて感じたと思います。
3囚人問題
問題:
ある3人の囚人A,B,Cのうち,明日,ランダムに1人が釈放され,残り2人が処刑されることを囚人たちは知っている。
囚人Aは,看守に,自分以外の囚人で処刑される人を1人教えてくれ」と訪ねたところ,看守は,囚人Bが処刑されることを告げた。
それを聞いた囚人Aは,「釈放される確率が\(\frac{1}{3}\)から\(\frac{1}{2}\)に上がった」と喜んだという。果たして本当に確率は上昇したのだろうか。
答え:釈放される確率は\(\frac{1}{3}\)のまま。
まず,看守から処刑される人を聞く前の囚人たちが釈放される確率は
囚人Aが釈放される確率 | \(\frac{1}{3}\) |
囚人Bが釈放される確率 | \(\frac{1}{3}\) |
囚人Cが釈放される確率 | \(\frac{1}{3}\) |
次に,場合分けをします。
(1)看守が囚人Bが処刑されると言ったとき
囚人Aが釈放される確率 | \(\frac{1}{3}\) |
囚人Bが釈放される確率 | \(0\) |
囚人Cが釈放される確率 | \(\frac{2}{3}\) |
このように,囚人Bが釈放される確率が囚人Cに移ります。
(2)看守が囚人Cが処刑されると言ったとき
囚人Aが釈放される確率 | \(\frac{1}{3}\) |
囚人Bが釈放される確率 | \(\frac{2}{3}\) |
囚人Cが釈放される確率 | \(0\) |
このように,囚人Cが釈放される確率が囚人Bに移ります。
よって,囚人Aが釈放される確率は、
\(\underbrace{\frac{1}{2}}_{Bが処刑と言う確率}\times\frac{1}{3}+\frac{1}{2}\times\frac{1}{3}=\frac{1}{3}\)
釈放される確率は,\(\frac{1}{3}\)のままということになります。
出現率5%のガチャを20回引いても,4割ははずす
みなさんは,スマホゲームなどでガチャを引いたことはありますか?
出現率が5%のガチャを20回引いても、ガチャが少なくとも1回以上当たる確率は,
\(1-( \frac{95}{100} )^{20}=0.645\)
です。
ものの見事に4割の人は外すことがわかります。
ですが,この事実を知っていたとしてもスマホゲームのガチャってやめられないじゃないですか?
心理学では「コンコルド効果」というらしいですが,「コンコルド効果」に陥ったときの対処法について以下の記事で解説しています。
精度は99.9%なのに陽性反応が出ても,陽性である確率はたったの9%
問題:
日本人の1万人に一人が罹患している病気について,病気の検査を行ったところ,検査の精度は99.9であった。ある人がこの病気の検査を受けたところ,陽性反応が出てしまった。
このとき,本当にこの人が病気に罹患している確率は何%だろうか?
答え:9%
ベイズの公式より,陽性と診断されたときに本当に罹患している確率を\(P(罹患|陽性)\)
\(P(罹患|陽性)=\frac{P(陽性|罹患)}{P(陽性|罹患)+P(陰性|罹患)}\)
\(P(陽性|罹患)=0.999\times \frac{1}{10000}\)
\(P(陰性|罹患)=0.001\times \frac{9999}{10000}\)
から,
\(P(罹患|陽性)=\frac{0.999}{0.999+9.999}=0.0908\)
そもそも,1万人に1人の病気で,精度が99.9%は低すぎる!
例えば,私が,1万人の人に陰性と言えば,9999人への診断は的中するので,
精度は,99.99%になります。
おまけ:誕生日のパラドックス
誕生日のパラドックスをご存じでしょうか??
同じクラス・部署に、同じ誕生日の人がいることはありませんか?
実は、教室に23人くらいいれば、同じ誕生日の人は半分以上の確率で存在します!
詳しくは,以下の記事をご覧ください
おまけ:経済学のアノマリー(パラドックス)
古典経済学では,人間はホモ・エコノミクス的に(自分の利益を最大化するために)行動すると言われていませんが、
実際の所,自分の利益を最大化するために行動するよりも、感情に流されて行動しがちです。
このように,感情に流されて非合理的な行動を取ることをアノマリーといいます。
そして,人がアノマリーな行動をとる原理は,数学的に求められています。
最後に
確率は面白いパラドックスが隠れています。
しかし,世の中には確率のパラドックスを利用して,人々を騙す詐欺師が横行しています。精度99.9%,出現確率5%などは,別に嘘を言っているわけではありません。
だから,このような確率を見て,誤った解釈をしてしまうと,自己責任で片付けられてしまいます。
皆さんも気をつけましょう。